それぞれの理由

冬貴と海里



 冬貴は高校に入学してすぐに部を作ることにした。どうせ部活動が必須ならば、自分の好きなことをしたいしかし冬貴が魅力を感じる部活は、この学校には存在しなかったからだ。そこで冬貴が考えたのが様々な雑用を引き受ける部活動である。そんな部活があれば、教師にも生徒にも重宝される。人脈を広げるとともにどんな大変な仕事でも引き受けることで貸しを作り、後々何をするにも動きやすいと冬貴は考えたのである。
 さっそく冬貴は行動を起こした。まず担任に新しい部活動を立ち上げるために必要なことを聞いた。どうやら学校から部活動を承認してもらうためには、顧問一人と部員四人がいなければならないらしい。冬貴は担任に顧問をやってくれないかと頼んだ。担任は活動内容を聞くと快く承諾した。
 次は部員だ。一人は中学が同じだった氷堂睦月でいいだろう。彼は面倒くさいという理由で中学では部活動に所属していなかった。だがこの学校ではそれができない。自分が作ろうとしている部活ならば極端な話、ただ所属しているだけでいいのだ。面倒ならば活動に参加する必要はない。
 二人目は同じクラスの松本春子。彼女は野球部に入部できなかったようだ。どうしても入りたかった部活に入部ができなかったとなれば、かなりショックを受けているだろう。彼女は意志も強そうだし、今まで密かに観察してきたがなかなか気も利く。今なら部に引き入れるのも容易だろう。
 問題はあと一人。まだどこの部活にも入部しておらず、できれば扱いやすい人間がいい。冬貴は休み時間や放課後に校内を回り、適材がいないかと探した。が、なかなか見つからない。仕方がないので、睦月に部活のことを話すついでにちょうどいい人物がいないか尋ねてみようと、冬貴は隣のクラスへ足を運んだ。そこで冬貴はある人物を中心に人だかりができているのを見つけたのだ。輪の中心にいたのはいわゆる「イケメン」と呼ばれる類の端正な顔立ちをした男で、絶え間なく口を動かして自分を取り巻く人間たちの笑いを誘っていた。
 この男だ、と冬貴は直感的に思った。冬貴が作ろうとしている部活は、ただ活動しているだけでは地味で陰気なイメージをもたれてしまう。それでは誰も寄りつかない。しかしこの男がいれば、多少うるさいかもしれないがきっと部の雰囲気が明るくなり親しみやすい部活になるはずだ。冬貴は当初の目的を放棄し、睦月に男の名前と彼が部活動に所属しているかどうかを尋ねた。
 男の名前は坂下海里。おそらくまだどの部活にも入部していないだろうという答えだった。これで部員がそろったと冬貴は心の中で笑んだ。
 さっそく冬貴は勧誘活動に移った。最初は同じクラスの松本春子からだ。話を始めた時は難しいかと思ったが、少し強引に話を進めると彼女は簡単にうなずいた。そして次に氷堂睦月。大した説明もせずに誘ったにもかかわらず、彼はあっさり入部を承諾した。最後が坂下海里だった。冬貴は彼がどんな人物であるかを知らなかったため、まずは慎重な態度で接することにした。

「坂下くん、ちょっといいかな」
「誰?」
「俺隣のクラスの武田冬貴っていうんだけど、坂下くんに頼みたいことがあるんだ」

 冬貴は自分の計画を説明し、あと一人部員が集まれば部として成立するのだと話した。しかし海里の反応はいまいちである。

「きっとみんなに頼られるし、そのうち学校でも広く知られるようになると思うんだよね。今集まってる部員も一人は当てにならないけどもう一人はしっかりした子だし。俺と同じクラスの松本さんっていう子なんだけど、」
「えっ、女子?」
「うん、そうだよ」
「なんだよー。俺男ばっかりのむさ苦しい部活かと思ってた。女子がいるんなら考えてみよっかなー」

 この反応を見て、冬貴はしめたと思った。どうやら海里が入部を渋っていたのは、男しかいない部活だと思っていたかららしい。

「松本さんってちょっと気は強いけど、かわいい子だよ」
「マジか。俺やるわ。入部する」

 こうして初期執行部の部員は集まった。



 活動が始まってしばらく経った頃、海里が冬貴のもとにやって来て言った。

「武田くん、俺やっぱやめていい? 松本さんってなんか、俺のイメージと違ってた。怖い」

 もちろん、冬貴が退部など認めなかったことは言うまでもない。
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